それは蒸し暑い夏の深夜のことで喉が渇いてキッチンの電気をつけた瞬間に冷蔵庫の脇からサササッと走り出した黒い影を見て私の心臓は止まりそうになりましたがその個体の動きがどこか重々しいことに気づき目を凝らして見るとそのお尻には小豆のような形の茶色い物体がくっついていました。その時はそれが何なのかすぐには理解できませんでしたが後で調べたところそれはまさに今から卵を産もうとしているメスのゴキブリでありあの茶色い物体は数十匹の卵が詰まった卵鞘だったのです。彼女は最適な産卵場所を探して彷徨っていたようで私が近づいても普段のような素早さで逃げることができずどこか必死な様子でコンロの裏の隙間へと消えていきました。翌朝どうしても気になってコンロを動かしてみるとそこには昨夜見たあの茶色いカプセルが壁にしっかりと貼り付けられておりその不気味な光景に鳥肌が立ちましたが同時にもし昨夜放置していたら数週間後にはここから無数の幼虫が湧き出していたのだと想像して背筋が凍る思いがしました。ゴキブリが卵を産むタイミングは人間が最も油断している夜間でありそれも湿気が多くて食べ物のカスが落ちているような場所に集中することを身をもって知ったのです。その日を境に私はキッチンの徹底的な大掃除を行いあらゆる隙間をパテで埋め一滴の水も残さないように拭き上げることを日課にしましたが不思議なことにそれ以来あの黒い影を見ることはなくなりました。産卵の現場を目撃するという最悪の体験でしたがそれは私の家の衛生管理に対する警告だったのかもしれません。ゴキブリは私たちが気づかないところで着々と繁殖の準備を進めておりその産卵のタイミングはまさに環境が整ったその瞬間に訪れます。あの時勇気を出してコンロの裏を確認した自分を褒めてあげたいですが同時に二度とあのような光景を見たくないという強い決意が今の私の清潔な生活を支えています。夜の台所は彼らにとっての聖域になりがちですが私たちが管理の目を光らせることでその繁殖の連鎖は必ず断ち切ることができるのだと確信しています。
恐怖の産卵を目撃した夜の台所の記録