我が家でチョウバエとの孤独な戦いが始まったのは梅雨明けの蒸し暑い時期のことであり最初は浴室の壁に一匹いた程度だったので手で追い払って終わらせていましたが数日経つと洗面所やトイレにも姿を現すようになり気づけば毎日五、六匹を退治しなければならない異常事態に発展しました。私は潔癖症なところもあり毎日排水口にパイプクリーナーを流しタイルの目地をブラシで磨き上げていましたがそれでもチョウバエの発生は止まらず一体どこが発生源なのかわからず途方に暮れる毎日を過ごしました。インターネットで検索を繰り返しあらゆる殺虫剤を試しましたが効果は一時的で暗闇の中でカサリと動く影に怯えるようになり夜中に電気をつけるのが怖くなるほどの精神状態に追い込まれました。そんなある日、ふと思いついて普段は動かさない洗濯機の排水ホースの隙間を懐中電灯で照らしてみたところそこにはわずかな水溜まりと共におびただしい数の黒い幼虫がうごめいているのを発見しあまりの衝撃に言葉を失いました。防水パンの縁から漏れたわずかな水が洗濯機の下で腐敗しそこにチョウバエが卵を産み付けていたのが真の原因だったのです。目に見える場所ばかりを磨いて満足していた自分がいかに浅はかだったかを痛感し即座に洗濯機を動かしてヘドロを掻き出し塩素系洗剤で消毒を行うと翌日から嘘のようにチョウバエの姿が消え去りました。この経験から学んだのはチョウバエという虫は人間の死角を突く天才であり発生源がわからないのではなく自分が見ようとしていない場所にこそ彼らの城があるということです。どれだけ表面をきれいにしても構造的な隙間や隠れた水溜まりを放置すればそれは彼らにとっての安住の地を提供し続けているのと同じことです。今では月に一度必ず家中をパトロールし隙間をパテで埋めるなどの対策を徹底していますがチョウバエとの戦いを通じて手に入れたのは単なる清潔さだけでなく自分の住まいを隅々まで把握し管理するという主権者としての自信でした。