血を吸う虫がもたらす被害は、かゆみや痛み、皮膚の炎症だけではありません。私たちが本当に恐れるべきは、彼らが媒介する「感染症」のリスクです。血を吸うという行為は、病原体(ウイルスや細菌、原虫など)を、ある宿主から別の宿主へと運ぶ、非常に効率的な手段となります。彼らは、まさに「空飛ぶ注射針」として、目に見えない病魔を、私たちの体内に送り込んでくるのです。世界的に見れば、蚊が媒介するマラリアや、デング熱、ジカ熱は、毎年何十万人もの命を奪う、人類にとっての大きな脅威です。幸い、現在の日本では、これらの感染症の国内での流行は、限定的です。しかし、近年、温暖化の影響や、海外との人の往来の増加により、デング熱の国内感染事例が報告されるなど、そのリスクは決してゼロではありません。特に、ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)は、デングウイルスを媒介する能力を持っています。日本国内で、より現実的な脅威となるのが、「マダニ」が媒介する感染症です。マダニは、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」という、致死率が非常に高いウイ-ルス感染症や、「日本紅斑熱」、「ライム病」といった、様々な病原体を保有していることがあります。野山や草むらに入り、マダニに咬まれることで、これらの深刻な病気に感染するリスクがあるのです。また、あまり知られていませんが、ネズミに寄生する「イエダニ」や「ノミ」も、病原体を媒介することがあります。彼らが媒介するリケッチアという病原体は、「ツツガムシ病」に似た、発熱や発疹を引き起こします。これらの感染症のリスクを避けるための、最も効果的な対策は、やはり「刺されない」ことに尽きます。アウトドア活動の際は、肌の露出を避け、有効成分(ディートやイカリジン)を含む虫除け剤を適切に使用する。家に帰ったら、すぐに入浴し、体に虫が付着していないかを確認する。そして、もし刺されてしまった後に、発熱や頭痛、倦怠感といった、風邪のような症状が現れた場合は、「たかが虫刺され」と侮らず、速やかに医療機関を受診し、野外活動歴があることを、必ず医師に伝えることが重要です。
血を吸う虫と感染症の危険な関係