それは深夜、静まり返ったリビングで一人、読書に耽っていた時のことでした。ふと視界の端を、何かが不自然に横切ったような気がして、私は本から目を上げました。フローリングの床を、体長一センチメートルほどもある、艶やかな光沢を放つ黒い丸い虫が、音もなく移動していました。その丸みを帯びたフォルムと、光を反射する硬そうな殻の質感から、瞬時に私はゴキブリの子供か、あるいは何か不吉な害虫ではないかと疑い、全身の毛穴が逆立つような恐怖に襲われました。私はすぐさま手近にあった雑誌を手に取り、その虫を仕留めようと構えましたが、相手はこちらの気配を察知したのか、テレビ台の下の暗闇へと素早く逃げ込みました。私は懐中電灯を片手に、這いつくばって隙間を照らしましたが、そこにはホコリに紛れて、さらにいくつかの小さな黒い点が動いているように見え、家全体が既に虫たちに占領されているのではないかという妄想に駆られました。翌朝、私は血眼になって家具の裏側を掃除し、市販の殺虫スプレーと毒餌を家中を要塞化するように配置しました。しかし、数日後、再び現れたその黒い丸い虫を捕獲してよく観察してみると、それはゴキブリではなく、庭から迷い込んできただけのクロゴミムシの仲間であることが判明しました。彼らは基本的に土の中で生活し、他の虫を食べたり植物の種を運んだりする野外の住人であり、人家の中に定着して繁殖することはまずありません。私の感じていた恐怖は、単なる無知による過剰反応だったのです。この格闘の記録を通じて私が学んだのは、虫を「不気味な異物」として一括りに排除しようとする前に、まずはその正体を冷静に突き止めることの重要性でした。私たちは「黒くて丸い」という視覚情報だけで、勝手にそこに悪意や汚れを投影してしまいますが、多くの虫たちはただ生きるために迷い込み、必死に出口を探しているに過ぎません。あの夜のパニックは、私が自然からいかに切り離された場所で暮らしているかを露呈させる出来事でもありました。今では、部屋の中に黒い丸い虫を見つけても、まずはその動きを観察し、コップと紙を使って外に逃がしてやる余裕が生まれました。家の中に現れる小さな異分子との遭遇は、不快なハプニングであると同時に、私たちの足元に広がる広大な生物の世界を思い出させてくれる、ささやかなインターホンなのかもしれません。それでもやはり、深夜の暗闇で予期せぬ影が動くたびに、私の心臓はわずかに跳ね上がりますが、それはかつての無差別な殺意ではなく、一つの生命に対する適切な警戒心へと変化しています。
部屋の隅で見つけた黒い丸い虫との格闘の記録