チャバネゴキブリとの戦いは、なぜこれほどまでに困難で、多くの人々を絶望させるのでしょうか。その理由は、彼らが、他のゴキブリとは一線を画す、いくつかの驚異的な能力と、厄介な習性を兼ね備えているからです。第一に、その「圧倒的な繁殖力」です。チャバネゴキブリのメスは、一生のうちに4〜8回も産卵し、一つの卵鞘(らんしょう)からは、30〜40匹もの幼虫が孵化します。そして、卵から成虫になるまでの期間は、環境が良ければ、わずか2ヶ月程度しかかかりません。これは、成虫になるまでに1年以上かかるクロゴキブリとは、比較にならないスピードです。一匹のメスが侵入しただけで、一年後には、その子孫が数万匹にまで増殖する可能性があるという計算も、決して大げさではないのです。第二に、「薬剤への抵抗性」を獲得しやすい、という点です。世代交代が非常に早いため、同じ殺虫剤を使い続けていると、その薬剤に対して耐性を持つ個体が、あっという間に現れ、その遺伝子が次世代へと受け継がれていきます。市販の殺虫スプレーが、だんだん効かなくなってくる、と感じることがあるのは、このためです。第三に、「集団で潜伏する」という、巧みな習性です。体長1〜1.5センチメートルという小さな体を活かし、冷蔵庫のモーター部分や、コンロの内部、壁のひび割れ、あるいはコンセントの裏側といった、私たちの目が届かず、薬剤も到達しにくい、暖かくて安全な場所に、巨大なコロニー(巣)を作ります。そして、基本的には夜行性で、警戒心も強いため、私たちが目にするのは、その大集団の、ほんの一部に過ぎません。圧倒的な繁殖力、薬剤への耐性、そして巧みな隠密行動。これらの能力が組み合わさることで、チャバネゴキブリは、家庭における「最強の害虫」として、君臨しているのです。生半可な対策では、この強敵に勝利することは、極めて困難であると言わざるを得ません。