日本の夏における、血を吸う虫の代名詞といえば、やはり「蚊」でしょう。耳元で響く、あの不快な羽音と、刺された後の、じわじわと広がるかゆみは、多くの人にとって、夏の風物詩とも言える悩みの種です。蚊は、世界中に数千種類も存在しますが、日本で主に問題となるのは、「アカイエカ」と「ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)」の二種類です。アカイエカは、主に夜間に活動し、家の中に侵入してくる、いわゆる「イエカ」です。一方、ヒトスジシマカは、屋外の藪や草むらに生息し、日中(特に朝夕)に活動する、いわゆる「ヤブ蚊」で、体に白黒の縞模様があるのが特徴です。血を吸うのは、どちらも産卵のための栄養が必要なメスだけです。彼女たちは、私たちが呼吸の際に吐き出す二酸化炭素や、体温、そして汗に含まれる化学物質を、鋭敏な感覚器で感知し、ターゲットを正確に捕捉します。蚊がもたらす最大の被害は、かゆみだけではありません。彼らは、日本脳炎や、デング熱、ジカ熱といった、重篤な感染症を媒介する「ベクター(媒介者)」としての、恐ろしい側面を持っています。蚊の対策の基本は、まず「発生源を断つ」ことです。蚊の幼虫であるボウフラは、わずかな水たまりがあれば、どこにでも発生します。植木鉢の受け皿や、空き缶、古タイヤなどに溜まった水を、定期的に捨てることで、家の周りでの蚊の繁殖を大幅に抑制できます。次に、「侵入を防ぐ」ことです。窓やドアには、必ず網戸を設置し、破れがないかを定期的にチェックします。玄関の出入りの際も、素早く開閉することを心掛けましょう。そして、「個人で防御する」ことです。屋外で活動する際は、長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を極力減らします。そして、虫除けスプレー(ディートやイカリジンといった有効成分を含むもの)を、衣服や、露出した肌に、ムラなく塗布することが、最も効果的な対策となります。
夏の夜の吸血鬼、蚊とその対策