長年、害虫駆除のプロとして、数多くのチャバネゴキブリの巣窟と対峙してきましたが、この強敵を完全に沈黙させるためには、単一の武器だけでは不十分です。それは、複数の戦術を組み合わせた、緻密な「総合戦略」によってのみ、達成可能です。私が、現場で最も重要視している、駆除の決め手となる三つのポイントについてお話ししましょう。第一の決め手は、「徹底的な初期調査(モニタリング)」です。闇雲に薬剤を撒くことは、弾薬の無駄遣いに過ぎません。まず、厨房やバックヤードの隅々、什器の裏側や内部に、調査用の粘着トラップを、数十箇所、仕掛けます。そして、数日後、どのトラップに、どのくらいの数のゴキブリが捕獲されたかを、マッピングしていきます。これにより、敵の主力がどこに潜み、どのルートで移動しているのか、その活動拠点(ホットスポット)が、手に取るように分かるのです。この科学的なデータ分析こそが、その後のすべての作戦の基盤となります。第二の決め手は、「ベイト剤の戦略的配置」です。モニタリングによって特定したホットスポットや、主要な移動ルート上に、プロ用の強力なベイト剤を、ミリ単位の精度で、ピンポイントに設置していきます。それは、敵の兵站線上に、地雷を仕掛けていくような作業です。ゴキブリが、餌を探す過程で、必然的にベイト剤に遭遇するように、彼らの習性を読み切り、罠を張るのです。ただ置くだけでなく、彼らが警戒しないよう、目立たなく、そして安全に感じられる場所に設置する技術が求められます。そして、第三の、そして最も重要な決め手は、「クライアント(施主)との協力体制の構築」です。いくら私たちが完璧な駆除を行っても、店や家の環境が、ゴキブリにとって住みやすいままであれば、必ず再発します。私たちは、駆除作業と並行して、クライアントに対し、日々の清掃方法や、食材の管理方法、ゴミの処理方法といった、「環境的防除」の重要性を、徹底的に指導します。私たちの仕事は、ゴキブリを殺すことだけではありません。クライアント自身が、ゴキブリのいない環境を、自らの手で維持できるようになるまでをサポートすること。それこそが、プロの仕事の、本当のゴールなのです。