ハイキングやキャンプ、あるいは庭仕事など、草木が生い茂る場所で活動する際に、最も警戒すべき血を吸う虫、それが「マダニ」です。名前に「ダニ」と付きますが、家の中にいる、アレルギーの原因となるヒョウヒダニなどとは、全くの別物です。マダニは、比較的大型(吸血前で3〜4ミリメートル)で、硬い外皮に覆われた、クモに近い仲間です。彼らは、草の葉の裏などに潜み、動物や人間が通りかかるのを、じっと待ち構えています。そして、獲物が近づくと、その体表に乗り移り、皮膚の柔らかい場所(脇の下や、足の付け根、頭皮など)を探して、そこに鋭い口器を突き刺し、吸血を開始します。マダニの吸血は、非常に巧妙です。唾液に含まれる麻酔成分の働きにより、咬まれたことに、私たちはほとんど気づきません。そして、一度吸血を始めると、セメントのような物質を分泌して、口器を皮膚にがっちりと固定するため、数日間、場合によっては一週間以上も、皮膚に食らいついたまま、血を吸い続けます。吸血を終えたマダニは、パンパンに膨れ上がり、小豆ほどの大きさになって、自然に脱落します。マダニがもたらす最大の恐怖は、かゆみや皮膚炎ではありません。それは、彼らが媒介する、命に関わる「感染症」のリスクです。特に、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」や、「日本紅斑熱」、「ライム病」といった、重篤な病気を引き起こすウイルスや細菌を、保有していることがあります。これらの感染症は、発熱や頭痛、消化器症状などを引き起こし、有効な治療法が確立されていないものもあります。もし、野外活動の後に、皮膚に黒いイボのようなものが食いついているのを発見しても、絶対に無理に引き抜こうとしてはいけません。無理に引き抜くと、マダニの口器が皮膚の中に残ってしまい、化膿したり、感染症のリスクを高めたりします。速やかに皮膚科を受診し、医師の手で、安全に除去してもらうことが、最も正しい対処法です。野山に入る際は、肌の露出を避け、虫除けスプレーを使用する。そして、帰宅後は、すぐに入浴し、体にマダニが付着していないかを、全身くまなくチェックする。この習慣が、見えざる吸血鬼の脅威から、あなたの身を守ります。