賃貸物件で蜂の巣が発見され、専門業者による駆除が必要となった時、入居者にとって最大の関心事となるのが「その駆除費用は、一体誰が負担するのか」という問題です。高額になることもある駆除費用を、自分が支払わなければならないのかと、不安に思うのは当然のことでしょう。この費用負担の問題は、民法の考え方と、賃貸借契約の内容に基づいて判断されます。結論から言うと、ほとんどの場合、蜂の巣の駆除費用は「大家さん(貸主側)」が負担することになります。民法では、賃貸人は、賃借人(入居者)がその物件を安全かつ快適に使用できるように維持する義務(修繕義務)を負っていると定められています。蜂の巣の存在は、入居者の安全な生活を脅かす「建物の不具合」や「瑕疵(かし)」と見なされます。そのため、その不具合を解消し、安全な状態に戻すための費用は、原則として貸主が負担すべき、というのが基本的な考え方です。ベランダや軒下、共用廊下といった場所にできた蜂の巣は、入居者が通常の使用をする上で、その発生を防ぐことが困難な不可抗力です。そのため、駆除費用を入居者に請求するのは、法的には難しいと言えます。しかし、この原則にはいくつかの例外が存在します。例えば、入居者が蜂を誘引するような行為をしていた場合、例えばベランダで甘いジュースを頻繁にこぼしていたり、ゴミを放置していたりしたことが原因で巣が作られたと判断された場合は、入居者の「善管注意義務違反」として、費用の一部または全部を負担するよう求められる可能性もゼロではありません。また、蜂の巣を発見したにもかかわらず、長期間にわたって管理会社や大家さんに報告せず、放置した結果、巣が巨大化し、駆除費用が高額になってしまった場合も、その責任の一部を問われる可能性があります。とはいえ、これらはあくまで例外的なケースです。賃貸物件で蜂の巣を発見したら、まずは速やかに管理者に報告する。そうすれば、費用負担の心配はほとんどの場合、不要であると理解しておいて良いでしょう。