庭の芝生の上や、花壇の隅に、蟻の巣が作られているのを発見した時、多くの人は「このまま放置しておいても良いのだろうか」と、少し不安に思うかもしれません。特に、小さなお子様やペットがいるご家庭では、その心配はさらに大きくなるでしょう。庭にできた蟻の巣を放置するか、それとも駆除すべきか。その判断は、蟻の種類と、巣が作られた場所、そしてそれがもたらすメリットとデメリットを、総合的に天秤にかける必要があります。まず、庭に巣を作る蟻の多くは、クロヤマアリやトビイロケアリといった、日本の在来種です。これらの蟻は、基本的におとなしい性格で、こちらから巣を直接刺激したり、蟻そのものを掴んだりしない限り、人を積極的に攻撃してくることはほとんどありません。彼らが庭にいることによるメリットも、実は少なくありません。蟻は、地面に巣穴を掘ることで土を耕し、通気性や水はけを良くしてくれます。また、昆虫の死骸などを巣に運び込むことで、土壌を豊かにする分解者としての役割も担っています。つまり、彼らは庭の生態系を維持するための、重要な一員なのです。しかし、その一方で、無視できないデメリットも存在します。最も問題となるのが、アブラムシとの「共生関係」です。蟻は、アブラムシが出す甘い排泄物(甘露)を餌とする代わりに、アブラムシの天敵であるテントウムシなどを追い払い、彼らを守るという習性を持っています。そのため、蟻の巣が近くにあると、庭の植物にアブラムシが大発生しやすくなるのです。また、巣が玄関のすぐそばや、子供の砂場の真下など、生活動線上に作られてしまうと、家の中に侵入してきたり、誤って巣を踏んでしまい、防御のために咬まれたりするリスクも高まります。さらに、近年問題となっている、強い毒を持つ外来種「ヒアリ」や「アカカミアリ」である可能性も、ゼロではありません。これらの危険な蟻は、巣を刺激すると集団で激しく攻撃してくるため、絶対に個人で対処してはいけません。結論として、巣が家から離れた庭の隅にあり、アブラムシの被害も特に気にならないのであれば、自然の営みとして「放置する(見守る)」という選択も十分に考えられます。しかし、生活に支障が出ている場合や、蟻の種類に不安がある場合は、無理をせず、適切な方法で駆除を検討するのが賢明と言えるでしょう。