約一ヶ月半に及ぶ、フンと騒音との長い戦いの末、ついにベランダの鳩の雛が巣立っていった。その瞬間の安堵感と解放感は、経験した者にしかわからない格別なものでしょう。しかし、ここで気を抜いてはいけません。本当の戦いは、実はここから始まるのです。鳩は非常に強い帰巣本能と執着心を持つ鳥であり、一度安全な場所だと認識した巣には、翌年も同じ個体、あるいはその子供たちが戻ってきて、再び巣作りを始める可能性が極めて高いのです。二度とあの悪夢を繰り返さないためには、巣が空になった後の「巣の撤去」「清掃・消毒」「再発防止」という三つのステップを、迅速かつ徹底的に行うことが不可欠です。まず、「巣の撤去」です。雛が巣立った後も、数日間は親鳥や若鳥が巣の周りに戻ってくることがあります。巣が完全に空になり、誰も寄り付かなくなったことを数日間かけて確認してから、作業を開始しましょう。作業の際は、必ずマスク、ゴム手袋、できればゴーグルを着用してください。乾燥した鳩のフンには、人体に有害な病原菌が含まれている可能性があるため、その粉塵を吸い込まないようにするためです。巣は、小枝や羽毛、そして大量のフンでできています。これを崩さないように、そっとビニール袋に入れ、口を固く縛って可燃ゴミとして処分します。次に、最も重要な「清掃・消毒」です。巣があった場所とその周辺には、大量のフンが付着しています。乾燥したフンをいきなり掃いたりすると、病原菌が空気中に飛散して危険です。まずは、霧吹きなどで水や消毒液を吹きかけ、フンを十分に湿らせてから、ヘラやブラシで削ぎ落とすように除去します。フンを完全に取り除いたら、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤を薄めたもの)や、消毒用エタノールを吹き付けた布で、その場所を徹底的に拭き上げ、消毒します。これにより、病原菌を殺菌すると同時に、鳩が自分の匂いを頼りに戻ってくるのを防ぐ効果もあります。そして、最後の仕上げが「再発防止策」です。鳩の執着心は、中途半端な対策では断ち切れません。最も確実で効果的な方法は、ベランダ全体を物理的に覆ってしまう「防鳥ネット」の設置です。専門業者に依頼するのが最も確実ですが、自分で設置する場合は、隙間なく、たるまないように張ることが重要です。この巣立ち後の対応こそが、来年以降の平和なベランダを取り戻すための、最も重要なステップなのです。