鳩が「平和の象徴」として世界中で愛されている理由は、その穏やかな見た目だけではありません。彼らの子育ての方法を知れば、そのイメージが単なる言い伝えではない、深い愛情に裏打ちされたものであることが分かります。鳩の子育ての最大の特徴であり、他の多くの鳥類とは一線を画す秘密、それが「ピジョンミルク」の存在です。ピジョンミルクは、その名の通り、親鳥が雛に与えるための「ミルク」ですが、もちろん哺乳類のように母乳が出るわけではありません。これは、親鳥(オスもメスも両方)の喉にある「そのう」という器官の内壁が、雛が孵化する時期に合わせて剥がれ落ち、脂肪とタンパク質に富んだチーズのような粥状になったものです。親鳥は、これを口移しで雛に与えて育てるのです。このピジョンミルクは、雛の成長にとってまさに完璧な栄養食と言えます。栄養価は非常に高く、哺乳類の乳に匹敵するほどのタンパク質と脂肪を含んでおり、孵化したばかりで体の弱い雛が、驚異的なスピードで成長するためのエネルギー源となります。私たちが鳩の赤ちゃんをほとんど見かけない理由の一つである、その成長の速さは、このピジョンミルクによって支えられているのです。さらに驚くべきは、ピジョンミルクを分泌するのが、メスだけでなくオスも同様であるという点です。多くの鳥類では、子育ての役割分担が決まっていますが、鳩は夫婦で協力して、この特別なミルクを雛に与えます。これにより、どちらか一方の親が不在でも、雛が飢えることなく、安定して栄養を摂取することができます。また、ピジョンミルクは、親鳥自身の体から作り出されるため、外部から運んできた昆虫などの餌と違って、細菌や寄生虫に汚染されているリスクが極めて低いという利点もあります。免疫力の低い雛にとって、これ以上なく安全で衛生的な食事なのです。卵を温めるのも、外敵から巣を守るのも、そしてミルクを与えて雛を育てるのも、すべて夫婦が協力して行う。その姿は、非常に合理的で、愛情に満ちています。鳩が持つこの献身的な子育ての習性こそが、彼らが厳しい自然界で、そして人間の暮らす都市環境の中で、たくましく繁栄を続けてきた、最大の理由なのかもしれません。
鳩の驚くべき子育て術ピジョンミルク