ベランダに作られた鳩の巣。そこから聞こえる雛の鳴き声や、熱心に餌を運ぶ親鳥の姿は、一見すると微笑ましい自然の営みのように見えるかもしれません。しかし、その光景を「微笑ましい」と放置しておくことは、あなたとあなたの家族の健康を、目に見えない深刻な危険に晒すことと同義です。鳩の巣は、単なる不快な存在ではなく、様々な病原菌や害虫を媒介する、極めて不衛生な「リスク源」なのです。まず、最も警戒すべきなのが、巣とその周辺に大量に蓄積される「フン」による健康被害です。鳩のフンには、様々な種類の病原菌やカビの胞子が含まれています。特に危険視されているのが、「クリプトコッカス症」「オウム病」「サルモネラ食中毒」「ヒストプラズマ症」といった、人獣共通感染症の原因菌です。乾燥したフンが風で砕けて空気中に飛散し、その粉塵を人間が吸い込んでしまうことで、これらの感染症にかかるリスクがあります。特に、免疫力が低下している高齢者や小さなお子様、持病のある方が感染すると、重い肺炎や髄膜炎といった、命に関わる深刻な症状を引き起こすことも少なくありません。また、鳩の巣は、二次的な害虫の温床となります。巣の中では、鳥の血を吸う「トリサシダニ」や、ノミ、ハエなどが大量に発生します。これらの害虫は、巣が大きくなるにつれて数を増やし、やがて網戸の隙間などから室内へと侵入してきます。そして、人間の血を吸ったり、アレルギー性疾患や皮膚炎の原因となったりするのです。原因不明の痒みや発疹に悩まされていたら、実はベランダの鳩の巣からやってきたダニが原因だった、というケースも珍しくありません。さらに、フンが発する強烈な悪臭や、親鳥や雛が四六時中発する鳴き声は、窓を開けられない、洗濯物が干せないといった生活上の不便だけでなく、不眠やストレスといった深刻な精神的苦痛をもたらします。鳩の巣を放置することは、これらの健康被害や精神的ストレスを、自ら受け入れ続けることに他なりません。法律上、巣立つまで手出しはできませんが、その危険性を正しく認識し、巣立った後には、徹底した清掃・消毒と、確実な再発防止策を講じることが、家族の健康を守るために不可欠なのです。