「なぜ、自分の家のベランダに勝手に作られた鳩の巣を、自分の手でどけてはいけないのか?」。フンや騒音の被害に悩まされている人にとって、このルールは非常に理不尽なものに感じられるかもしれません。しかし、その背景には、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」、通称「鳥獣保護管理法」という、日本の生態系と私たちの生活環境を守るための、非常に重要な法律が存在します。この法律の基本的な目的は、野生鳥獣の個体数を適正に管理し、生物の多様性を確保すること、そしてそれを通じて、私たちの生活環境を守り、農林水産業の健全な発展に貢献することにあります。つまり、特定の動物をむやみに増やしたり、減らしたりすることを防ぎ、自然界全体のバランスを保つためのルールなのです。この法律では、哺乳類と鳥類に属するほとんどの野生動物が「鳥獣」として定義され、保護の対象となっています。そして、私たちが都市部でよく見かけるドバトも、この法律によって保護されるべき「鳥獣」に含まれているのです。法律で固く禁じられているのは、都道府県知事などの許可なく、これらの鳥獣を「捕獲」したり、「殺傷」したりすること、そして「鳥類の卵を採取・損傷」することです。ここで、多くの人が疑問に思うのが、「巣を撤去するだけで、捕獲や殺傷にあたるのか?」という点です。法律上の解釈では、卵や雛がいる巣を、その場所から動かしたり、取り除いたりする行為は、たとえ殺意がなかったとしても、それらを物理的に自分の支配下に置くことになるため、「捕獲」に該当すると判断されます。また、その過程で卵が割れたり、雛が死んでしまったりすれば、「殺傷」や「損傷」にあたります。これらの違反行為に対しては、「一年以下の懲役または百万円以下の罰金」という、決して軽くない罰則が定められています。この法律は、私たちの感情とは別に、人間と野生動物との間に、一定のルールを設けています。それは、私たちの生活空間に入り込んできた動物であっても、その命を人間が一方的に奪うことは許されない、という考え方に基づいています。したがって、私たちは、法律の範囲内でできること、つまり、巣が作られる前の「追い払い」や、巣立った後の「巣の撤去と再発防止」といった、適切な対応を取ることが求められるのです。
鳩の赤ちゃんと鳥獣保護管理法の関係