都会の小さなベランダでハーブを育てることが、私のささやかな癒やしでした。特に、料理にも使えるパセリは、青々と茂り、私の自慢の種でした。しかし、その平和なベランダガーデンに、ある日、異変が起きました。パセリの葉の裏に、直径一ミリほどの、黄色く艶やかな小さな粒が、一つ、また一つと産み付けられているのを発見したのです。それは、まるで宝石のようにも見えましたが、直感的に「これは虫の卵だ」とわかりました。私はすぐさまスマートフォンで「パセリ 黄色い卵」と検索しました。すると、すぐにその正体が判明しました。それは「キアゲハ」という美しい蝶の卵だったのです。キアゲハの幼虫は、パセリやニンジン、ミツバといったセリ科の植物を大好物とすることを知り、私は複雑な気持ちになりました。害虫であることは間違いありません。このまま放置すれば、私の可愛いパセリは、あっという間に丸坊主にされてしまうでしょう。しかし、相手はあの美しい蝶です。卵を潰してしまうことに、強い抵抗を感じました。数日、私は悩みました。その間にも、卵は少しずつ増えていきます。そして、最初に産み付けられた卵から、小さな黒い幼虫が孵化し、健気にパセリの葉を食べているのを見てしまったのです。私は決断を迫られました。このまま見守って、パセリを犠牲にして蝶の羽化を見届けるか。それとも、心を鬼にして、パセリを守るために駆除するか。悩んだ末、私は一つの折衷案を思いつきました。それは、数個の卵だけを、葉っぱごと切り取って別の小さな容器に移し、室内で育てるというものでした。そして、ベランダのパセリに産み付けられた残りの卵は、残念ながらティッシュで取り除きました。その後、容器の中の幼虫はすくすくと育ち、緑色の美しい姿に変わり、やがて蛹になり、見事なキアゲハとなって飛び立っていきました。あの一連の出来事は、私にガーデニングの難しさと、生命の営みについて深く考えさせる、忘れられない体験となりました。たった一つの虫の卵が、これほどまでに心を揺さぶるとは、思いもしませんでした。