初めての人向けに分かりやすく解説

害獣
  • 我が家のベランダが鳩の託児所に

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    すべての始まりは、一本の小さな小枝でした。ある春の朝、ベランダの隅に、見慣れない枯れ枝が一本落ちているのに気づいたのです。その時は「風で飛んできたのかな」と、何の気なしに拾って捨てました。しかし、翌日には三本、その次の日には十本と、小枝は着実にその数を増やしていきました。そして、週末を迎える頃には、室外機の裏の狭い隙間に、お世辞にも上手とは言えない、しかし紛れもない鳥の「巣」が完成していたのです。犯人は、毎日ベランダの手すりにやってきていた、一羽の鳩でした。最初は「まあ、自然のことだし」と、どこか牧歌的な気持ちで眺めていました。しかし、巣の中に白く小さな卵が二つ産み落とされているのを発見した時、私の心境は一変しました。これは、数日で終わる話ではない。フンや鳴き声に悩まされる日々が、これから始まるのだ。そう直感した私は、すぐに巣を撤去しようと考えました。しかし、インターネットで調べていくうちに、「鳥獣保護管理法」という、分厚い法律の壁にぶつかったのです。卵や雛がいる巣は、たとえ自分の家のベランダであっても、勝手に撤去してはいけない。その事実を知った時の絶望感は、今でも忘れられません。その日から、我が家のベランダは、完全に鳩の「託児所」と化しました。フンは日に日に増え、洗濯物を干すことも、窓を開けて換気することもままなりません。親鳥の「クルックー」という鳴き声と、やがて卵から孵った雛の「ピーピー」という甲高い声が、朝から晩まで部屋に響き渡ります。私は、巣の下に新聞紙を敷き、毎日それを交換するという、地味で、しかし終わりの見えない戦いを強いられました。正直、憎しみさえ覚えた日もありました。しかし、日に日に大きくなり、親鳥から口移しで餌をもらう雛の姿を見ているうちに、不思議と少しだけ、情が移ってしまったのも事実です。そして、約一ヶ月半後、巣はもぬけの殻になりました。あの騒がしさが嘘のような静寂がベランダに戻った時、私が感じたのは、言葉にできないほどの解放感と、ほんの少しの寂しさでした。もちろん、すぐに専門の業者に連絡し、ベランダ全体に防鳥ネットを張ってもらいました。二度と、あんな経験はごめんですから。

  • ベランダの鳩の巣に赤ちゃんが!

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    ある日、ふとベランダに目をやると、室外機の裏に見慣れない小枝が集まっている。そして、数日後には簡素ながらも巣が完成し、そこには可愛らしい二つの卵が。最初は微笑ましく思えたその光景も、やがてフンや鳴き声に悩まされ始め、「早くどこかへ行ってほしい」という気持ちに変わっていきます。そして、卵が孵り、か細い声で鳴く赤ちゃんの姿を確認した時、多くの人は「もう我慢の限界だ。巣ごと撤去してしまおう」と考えるかもしれません。しかし、その行動は、決して起こしてはなりません。なぜなら、あなたのその行為は「法律違反」となり、重い罰則の対象となる可能性があるからです。その法律の名は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」、通称「鳥獣保護管理法」です。この法律は、日本に生息する多くの野生鳥獣を保護し、生物の多様性を確保することを目的としています。そして、私たちが普段目にするドバトも、この法律によって保護されている対象なのです。この法律では、都道府県知事などの許可なく、野生鳥獣を「捕獲」したり、「殺傷」したり、「卵を採取」したりすることを固く禁じています。ここで重要になるのが、「捕獲」の定義です。たとえ自分の家のベランダであっても、卵や雛がいる巣を撤去する行為は、それらを物理的に自分の支配下に置くことになるため、法律上の「捕獲」にあたると解釈されます。つまり、良かれと思って巣を移動させたり、処分したりする行為は、意図せずして違法行為となってしまうのです。もし、この法律に違反した場合、「一年以下の懲役または百万円以下の罰金」という、非常に重い罰則が科される可能性があります。では、私たちは一体どうすれば良いのでしょうか。答えは一つしかありません。それは、「雛が自力で巣立つまで、ただひたすら待つ」ことです。鳩の雛が巣立つまでには、孵化してから約一ヶ月から一ヶ月半かかります。その間は、フン害や騒音に耐えなければならず、精神的に非常に辛い期間となるでしょう。しかし、法律を遵守し、無用なトラブルを避けるためには、それ以外の選択肢はないのです。巣の下に新聞紙を敷いてこまめに交換するなど、被害を最小限に抑える工夫をしながら、その時が来るのを待つ。そして、雛が完全に巣立ったのを確認した後に、ようやく巣の撤去と、二度と巣を作らせないための徹底的な再発防止策を講じることができるのです。

  • 鳩の雛が巣立った後の正しい対処法

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    約一ヶ月半に及ぶ、フンと騒音との長い戦いの末、ついにベランダの鳩の雛が巣立っていった。その瞬間の安堵感と解放感は、経験した者にしかわからない格別なものでしょう。しかし、ここで気を抜いてはいけません。本当の戦いは、実はここから始まるのです。鳩は非常に強い帰巣本能と執着心を持つ鳥であり、一度安全な場所だと認識した巣には、翌年も同じ個体、あるいはその子供たちが戻ってきて、再び巣作りを始める可能性が極めて高いのです。二度とあの悪夢を繰り返さないためには、巣が空になった後の「巣の撤去」「清掃・消毒」「再発防止」という三つのステップを、迅速かつ徹底的に行うことが不可欠です。まず、「巣の撤去」です。雛が巣立った後も、数日間は親鳥や若鳥が巣の周りに戻ってくることがあります。巣が完全に空になり、誰も寄り付かなくなったことを数日間かけて確認してから、作業を開始しましょう。作業の際は、必ずマスク、ゴム手袋、できればゴーグルを着用してください。乾燥した鳩のフンには、人体に有害な病原菌が含まれている可能性があるため、その粉塵を吸い込まないようにするためです。巣は、小枝や羽毛、そして大量のフンでできています。これを崩さないように、そっとビニール袋に入れ、口を固く縛って可燃ゴミとして処分します。次に、最も重要な「清掃・消毒」です。巣があった場所とその周辺には、大量のフンが付着しています。乾燥したフンをいきなり掃いたりすると、病原菌が空気中に飛散して危険です。まずは、霧吹きなどで水や消毒液を吹きかけ、フンを十分に湿らせてから、ヘラやブラシで削ぎ落とすように除去します。フンを完全に取り除いたら、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤を薄めたもの)や、消毒用エタノールを吹き付けた布で、その場所を徹底的に拭き上げ、消毒します。これにより、病原菌を殺菌すると同時に、鳩が自分の匂いを頼りに戻ってくるのを防ぐ効果もあります。そして、最後の仕上げが「再発防止策」です。鳩の執着心は、中途半端な対策では断ち切れません。最も確実で効果的な方法は、ベランダ全体を物理的に覆ってしまう「防鳥ネット」の設置です。専門業者に依頼するのが最も確実ですが、自分で設置する場合は、隙間なく、たるまないように張ることが重要です。この巣立ち後の対応こそが、来年以降の平和なベランダを取り戻すための、最も重要なステップなのです。

  • 鳩の赤ちゃんの巣がもたらす健康被害

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    ベランダに作られた鳩の巣。そこから聞こえる雛の鳴き声や、熱心に餌を運ぶ親鳥の姿は、一見すると微笑ましい自然の営みのように見えるかもしれません。しかし、その光景を「微笑ましい」と放置しておくことは、あなたとあなたの家族の健康を、目に見えない深刻な危険に晒すことと同義です。鳩の巣は、単なる不快な存在ではなく、様々な病原菌や害虫を媒介する、極めて不衛生な「リスク源」なのです。まず、最も警戒すべきなのが、巣とその周辺に大量に蓄積される「フン」による健康被害です。鳩のフンには、様々な種類の病原菌やカビの胞子が含まれています。特に危険視されているのが、「クリプトコッカス症」「オウム病」「サルモネラ食中毒」「ヒストプラズマ症」といった、人獣共通感染症の原因菌です。乾燥したフンが風で砕けて空気中に飛散し、その粉塵を人間が吸い込んでしまうことで、これらの感染症にかかるリスクがあります。特に、免疫力が低下している高齢者や小さなお子様、持病のある方が感染すると、重い肺炎や髄膜炎といった、命に関わる深刻な症状を引き起こすことも少なくありません。また、鳩の巣は、二次的な害虫の温床となります。巣の中では、鳥の血を吸う「トリサシダニ」や、ノミ、ハエなどが大量に発生します。これらの害虫は、巣が大きくなるにつれて数を増やし、やがて網戸の隙間などから室内へと侵入してきます。そして、人間の血を吸ったり、アレルギー性疾患や皮膚炎の原因となったりするのです。原因不明の痒みや発疹に悩まされていたら、実はベランダの鳩の巣からやってきたダニが原因だった、というケースも珍しくありません。さらに、フンが発する強烈な悪臭や、親鳥や雛が四六時中発する鳴き声は、窓を開けられない、洗濯物が干せないといった生活上の不便だけでなく、不眠やストレスといった深刻な精神的苦痛をもたらします。鳩の巣を放置することは、これらの健康被害や精神的ストレスを、自ら受け入れ続けることに他なりません。法律上、巣立つまで手出しはできませんが、その危険性を正しく認識し、巣立った後には、徹底した清掃・消毒と、確実な再発防止策を講じることが、家族の健康を守るために不可欠なのです。

  • 鳩の驚くべき子育て術ピジョンミルク

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    鳩が「平和の象徴」として世界中で愛されている理由は、その穏やかな見た目だけではありません。彼らの子育ての方法を知れば、そのイメージが単なる言い伝えではない、深い愛情に裏打ちされたものであることが分かります。鳩の子育ての最大の特徴であり、他の多くの鳥類とは一線を画す秘密、それが「ピジョンミルク」の存在です。ピジョンミルクは、その名の通り、親鳥が雛に与えるための「ミルク」ですが、もちろん哺乳類のように母乳が出るわけではありません。これは、親鳥(オスもメスも両方)の喉にある「そのう」という器官の内壁が、雛が孵化する時期に合わせて剥がれ落ち、脂肪とタンパク質に富んだチーズのような粥状になったものです。親鳥は、これを口移しで雛に与えて育てるのです。このピジョンミルクは、雛の成長にとってまさに完璧な栄養食と言えます。栄養価は非常に高く、哺乳類の乳に匹敵するほどのタンパク質と脂肪を含んでおり、孵化したばかりで体の弱い雛が、驚異的なスピードで成長するためのエネルギー源となります。私たちが鳩の赤ちゃんをほとんど見かけない理由の一つである、その成長の速さは、このピジョンミルクによって支えられているのです。さらに驚くべきは、ピジョンミルクを分泌するのが、メスだけでなくオスも同様であるという点です。多くの鳥類では、子育ての役割分担が決まっていますが、鳩は夫婦で協力して、この特別なミルクを雛に与えます。これにより、どちらか一方の親が不在でも、雛が飢えることなく、安定して栄養を摂取することができます。また、ピジョンミルクは、親鳥自身の体から作り出されるため、外部から運んできた昆虫などの餌と違って、細菌や寄生虫に汚染されているリスクが極めて低いという利点もあります。免疫力の低い雛にとって、これ以上なく安全で衛生的な食事なのです。卵を温めるのも、外敵から巣を守るのも、そしてミルクを与えて雛を育てるのも、すべて夫婦が協力して行う。その姿は、非常に合理的で、愛情に満ちています。鳩が持つこの献身的な子育ての習性こそが、彼らが厳しい自然界で、そして人間の暮らす都市環境の中で、たくましく繁栄を続けてきた、最大の理由なのかもしれません。

  • 地面に落ちた鳩の赤ちゃんを見つけたら

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    公園の木の下や、マンションの通路の隅で、まだ十分に飛べない様子の鳩の赤ちゃんが、一羽でうずくまっている。そんな光景に出会った時、多くの人は「親とはぐれてしまったんだ」「弱っている、助けてあげなければ」という、優しい気持ちから、すぐに保護しようと手を差し伸べてしまうかもしれません。しかし、その善意の行動が、実はかえって雛の命を危険に晒し、親子の絆を引き裂いてしまう、悲しい結果を招く可能性があることをご存知でしょうか。地面に落ちている鳩の雛を見つけた時、私たちがまずすべきことは、「拾う」ことではなく、「見守る」ことです。その雛は、必ずしも親とはぐれて迷子になっているわけではありません。多くの場合、それは巣立ちを迎えたばかりの若鳥が、親鳥に見守られながら「飛行訓練」を行っている最中なのです。彼らはまだ飛ぶのが下手で、すぐに疲れて地面に降りてしまうことがよくあります。しかし、その近くでは、必ず親鳥が警戒しながら様子を窺っており、餌を与えたり、外敵が近づかないように威嚇したりしています。そんな時に人間が近づき、雛を拾い上げてしまうと、親鳥は警戒してそれ以上近づけなくなってしまいます。さらに、人間の匂いが雛に付着してしまうと、親鳥が育児を放棄してしまう「育雛放棄」の原因になるとも言われています。あなたが良かれと思って保護したその行為が、実は親子の大切な時間を邪魔し、雛が自然の中で生きる術を学ぶ機会を奪ってしまうことになるのです。では、どのような場合に保護が必要なのでしょうか。それは、明らかに翼や脚を怪我している、出血している、あるいはカラスや猫といった天敵にまさに襲われそうになっている、といった生命の危機が差し迫っている場合です。また、一日以上、同じ場所から全く動かず、親鳥が姿を現す気配も全くない場合も、保護を検討すべきかもしれません。そのような場合は、決して個人で家に連れて帰って育てるのではなく、お住まいの地域の都道府県や市町村の、鳥獣保護を管轄する部署(環境課など)や、動物保護センターに連絡し、指示を仰ぐのが正しい対応です。野生動物への本当の優しさとは、時に、人間の介入をぐっとこらえ、自然の摂理に任せる勇気を持つことなのかもしれません。