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地面に落ちた鳩の赤ちゃんを見つけたら
公園の木の下や、マンションの通路の隅で、まだ十分に飛べない様子の鳩の赤ちゃんが、一羽でうずくまっている。そんな光景に出会った時、多くの人は「親とはぐれてしまったんだ」「弱っている、助けてあげなければ」という、優しい気持ちから、すぐに保護しようと手を差し伸べてしまうかもしれません。しかし、その善意の行動が、実はかえって雛の命を危険に晒し、親子の絆を引き裂いてしまう、悲しい結果を招く可能性があることをご存知でしょうか。地面に落ちている鳩の雛を見つけた時、私たちがまずすべきことは、「拾う」ことではなく、「見守る」ことです。その雛は、必ずしも親とはぐれて迷子になっているわけではありません。多くの場合、それは巣立ちを迎えたばかりの若鳥が、親鳥に見守られながら「飛行訓練」を行っている最中なのです。彼らはまだ飛ぶのが下手で、すぐに疲れて地面に降りてしまうことがよくあります。しかし、その近くでは、必ず親鳥が警戒しながら様子を窺っており、餌を与えたり、外敵が近づかないように威嚇したりしています。そんな時に人間が近づき、雛を拾い上げてしまうと、親鳥は警戒してそれ以上近づけなくなってしまいます。さらに、人間の匂いが雛に付着してしまうと、親鳥が育児を放棄してしまう「育雛放棄」の原因になるとも言われています。あなたが良かれと思って保護したその行為が、実は親子の大切な時間を邪魔し、雛が自然の中で生きる術を学ぶ機会を奪ってしまうことになるのです。では、どのような場合に保護が必要なのでしょうか。それは、明らかに翼や脚を怪我している、出血している、あるいはカラスや猫といった天敵にまさに襲われそうになっている、といった生命の危機が差し迫っている場合です。また、一日以上、同じ場所から全く動かず、親鳥が姿を現す気配も全くない場合も、保護を検討すべきかもしれません。そのような場合は、決して個人で家に連れて帰って育てるのではなく、お住まいの地域の都道府県や市町村の、鳥獣保護を管轄する部署(環境課など)や、動物保護センターに連絡し、指示を仰ぐのが正しい対応です。野生動物への本当の優しさとは、時に、人間の介入をぐっとこらえ、自然の摂理に任せる勇気を持つことなのかもしれません。